第五話

影の怪物は柳の攻撃すらものともしなかった。
そこに覚醒状態の宥と、ハンマーを携えた怜が来て攻撃をたたき込む。
それでも影は止まらない。
一方楓真は、比良のもとに駆け寄った。
「比良さん!比良さん!しっかりしてください。」
楓真は比良を背負うと、大澤が待機する後ろの方に連れて行った。
「比良!しっかりしろ!」
大澤の声に、比良が目を開いた。
「面目ない…。」
楓真は比良をその場に寝かすと、比良のナイフを取って戦線に向かった。
一方、柳らは未だに攻撃を当てられないでいた。
「くそっ!何回やっても同じことの繰り返しだ!」
怜は、ハンマーを振るうが、効果はない。
すると、宥が言う。
「ハハッ!気づいちまったぜ!こいつ、再生してるんじゃない。そもそもこいつに実体がないんだよ!」
「それはつまり…こいつ自身が、影ってことか!」
柳は何かに気づいたようにポケットから懐中電灯を取り出した。
「ほぅら。光だぜ。満足するまで浴びろッ!」
懐中電灯の光に照らされた部分が見えなくなった。
「攻撃として効いているのか⁉」
「いや。全身に永続的に照射し続けないとだめだ。」
「そんなの…」
「ああ。不可能だ。」
すると楓真が言った。
「怜が影に会ったって言ってた日って、曇りだったよな。」
すると怜がはっとした。
「ああ。そうだが…あ!そういうことか!」
すると柳が言った。
「今宵は新月…こいつが目撃されていたのはいずれも月や太陽が出ていない日…」
全員が頭を抱えた。
「ダメだ。意味なさそう。」
全員が落ち込んでいると、宥が指をさした。
「おい見ろよお前ら!あいつ、足元が変だぞ!」
全員が影の怪物の足元を凝視した。
すると―
「あ!?」
なんと、足元の一部がくすんだ鏡のように反射して、怪物の足を映していた。
雄心はつぶやいた。
「これは地面が鏡に変えられているのか、または下に影の世界が存在するのかってとこか。」
すると怜が言う。
「んなもん後者一択だろ。」
柳は怪訝な顔をした。
「だけどどうやって入り込む。」
覚醒から落ち着き始めた宥は言った。
「足元だ。全員でやつの足元に飛び込む。そうすればきっと…」
宥が言い終わる前に柳が口をはさんだ。
「愚策だ。もし失敗したらどうする。全員死ぬぞ。俺らが死ねば比良さんや大澤さんも死に、逗人大乱前に全滅だ。」
すると楓真があくびをしながら言った。
「ふわぁ…。めんどくさいな。んなもんやってみねぇとわかんねぇだろ!」
「やってみるのにどれだけのリスクがあると思ってる!」
「しーらね。」
「もういい!そこまで言うならお前ひとりで行ってこい!」
「わかったよ!最強が腰抜けじゃ、今回も負けかなー。いっそのこと俺が最強ならよかったのに。」
柳と楓真の口喧嘩は続いた。
その間、全力で影の怪物を止めている怜や宥たちの身にもなるべきだろう。
「やってやるよ!」
楓真が単独で走り出した。
足元。確実にその一点だけを狙えていた。
楓真が足元に飛び込んだ時、目の前が真っ暗になった。
しかしすぐに気づいた。真っ暗ではない。くすんだ影の世界だと。
「来たぜ!」
そこには影ではない、実体の影の怪物がいた。
「え?いきなりタイマン!?俺丸腰。タイムタイム。」
すると、影の怪物が飛びかかった。
「うおっ!?」
すると楓真はとっさによけ、すぐにけりかかった。
ガシ
止められた。だが、止められたということは今度は影ではない。
「キチャア!柳たちもさっさと来いよ!」
一方、透過する方の影の怪物と戦っている柳たちは、楓真が影の世界に入ったのを見て飛び込んだ。
しかし、地面にたたきつけられただけ。何もなかった。
「チッ。定員一名ってとこか。」
すると、雄心が素朴な疑問を投げかけた。
「そういや、俺らはこいつに攻撃当たらないのに、こいつの攻撃はなぜ当たるんだ?」
柳はため息をつきながら言った。
「まったく…気づいていなかったのか。あいつの手足の先、針でコーティングされてる。」
「針で殴られてたってこと?」
「はぁ…戦いながら言うのもなんだが、攻撃には点の攻撃と面の攻撃がある。」
「あーね。わかるよ。」
「針は点の攻撃だ。でも、それが集まると…」
「面の攻撃になる!」
「そういうことだ。やるぞ!」
こう言う柳だったが、彼にはすさまじい不安があった。
(楓真…あいつは才能があるがまだ未成熟。それに丸腰。影の実体とサシやってんなら厳しいか…死ぬなよ…)
柳の予想通り、楓真は影の実体に追い詰められていた。
「ぐわっ。つえぇ!」
影の怪物の威力の前に、楓真は追い詰められていた。
うずくまる楓真の前に、影の怪物が立ちはだかる。
「どうにでも…なれ!」
楓真は拳をたたき込んだ。びくともしない。
バン
楓真は吹き飛ばされた。
「いってぇ…血出てるし。」
影の怪物が静かに迫る中、楓真は影の怪物を観察した。
(…形は太った人型…人間かって言われると、違うな。でも、足が2本、腰から生えてるってことは…)
小6レベルの頭脳が導き出した答えは一つだった。
楓真は近づくと勢いよく影の怪物の股間を蹴り上げた。
「やっぱ金的が一番だぜぇ!」
もはや思考回路が小学生のそれである。およそ18歳のものではない。
しかし、確実に効果はあった。影の怪物の動きが崩れた。
「必殺技!金的連打!」
楓真の容赦のない攻撃が叩き込まれた。
運動神経最強の男による金的は、もはや致命傷である。
「ちぇっ。怪物は蹴りにくいな。」
影の怪物は悶絶した。
その瞬間、楓真の目の前が明るくなる。
「影の世界が壊れて、実体が現実に来た!」
柳が叫ぶと、怜のハンマーが振り下ろされた。
頭部破損。影の怪物は倒れた。
そこに雄心が来る。
「俺はすぐにとどめを刺したいんでな。」
矢を怪物の首に刺した。
「にしても…柳もぼろぼろじゃん。」
「…うるさい。最強ってのは委員会側での最強だからな…」

それから数日後、委員会本部の中庭に柳と補佐官たちが集まっていた。
そこには珍しく委員長がいた。
「おぬしら。そんなものでは逗填に勝てんぞ。」
「…」
委員長の言葉は確信を突いていた。事実である。
「よって、今から3年間弱、ひとり一人、閉じ込めて訓練してもらう。」
「え!?3年くらい会えないの?」
「うむ。」
ひとり一人、違う部屋に案内された。どの部屋にも、端に訓練用に回収した怪物の核が置いてある。
「「「「「よし。やるか。」」」」」

つづく

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