2523年、日本は怪物を率いる逗填という人物の恐怖にさらされていた。
500年に一度、逗填によって人間と逗填率いる怪物らとの戦争「逗人大乱」が行われる。
そして毎回、逗人大乱の18年前に一人、最強が生まれる。
500年は、人間にとって出来事が「都市伝説」になるのに十分すぎる時間だった。
無職・中卒・成績最悪の棚守楓真は、今日もバイトから帰っていた。
ある日、青く澄んでいた空が一瞬で黒に染まった。
「なんだ…?」
その瞬間、空に男の顔が映し出された。若いとも老いているとも見える、不思議な顔だった。
「皆さん。逗人大乱のお知らせです。3年後の今日、逗人大乱を始めます。今回は前回と同じく1000体の怪物を放出します。ただ、今回からは新ルールとして、3年前…つまり今日から一日一体、別で怪物を日本のどこかに放ちます。では、健闘を祈ります。」
すると、再び空が青く澄んだ。
「夢…じゃないよな?」
楓真は怪訝に思いつつも、家に帰った。
家に帰ってテレビをつけると、どの番組も同じニュースばかり放送していた。
「あの男…逗填?…って誰?」
報道画面には、「都市伝説【逗人大乱】は実在した!?」と書かれてある。
それから3日後、楓真がバイトから帰っていると、路地裏から物音がした。
「何だ?こんなとこに。」
小学生の時から好奇心だけは人一倍あった楓真は、路地裏に向かった。
そこでは、異形の「何か」が、もはや原形をとどめていないがおそらく人だったであろう”もの″を貪っていた。
「え?」
その異形は楓真に向き直ると、立ち上がった。
(でかい…!3mはある!何なんだよ…これ…)
そう考えている頃には逃げ出していた。
楓真は運動能力にだけは自信があった。
いつもクラス一位。50m走は6.97秒。スポーツ推薦での高校進学も考えたが、それすらできないほど基礎の学力が不足していた。
中学を卒業してそれなりには勉強したが、始点が小学校一年生レベルからなので、18歳になった今でさえ、中学一年生の内容である。
異形は楓真を追いかけていた。
初動が遅かっただけに、逃げ切れそうだった。
しかし、空気が変わった。
後ろから異形が猛追しているのがわかった。
人では出来ないような速さだった。
捕まる。食われる。その時だった。
「よしよし。いいぞいいぞ~。」
前に人影が現れた。
「えっ…うそ、あぶな…」
そう言った頃には、人影が消え、真後ろから声がした。
「はい。お疲れ様。」
楓真の後頭部に液体が飛んできた。
血だ。誰の?あの人影か?違った。振り返ったとき、異形はそこにはいなかった。
「君、早いね~」
代わりにそこにいたのは顎ひげを蓄えたチャラそうな中年の男だった。
「さっきの…化け物は…?」
「ああね。あれ?君、3日前のやつ、見たでしょ。」
「ああ、あの逗人大乱ってやつか…」
「そうそう。そんとき、一日一体怪物を別で放出するって言ってたじゃん。これがその怪物の一体。」
怪物。その言葉に、楓真は驚きを隠せなかった。
「にしても君、最強補佐官に向いてるんじゃない?」
「最強…補佐官?最強レベルの補佐官ってことですか?」
「違う。最強を補佐する役だよ。逗人大乱で。」
「ちょっとよくわからないのですが。」
それもそのはずだ。
「説明要る感じ?マジかー。めんど。んじゃ、どれから聞きたい?怪物のこと、逗填のこと、逗人大乱のこと、最強補佐官のこと。」
「逗人大乱は、あの後都市伝説の本買って調べました。人と逗填一人の殺し合いって。」
「ちょっと盛りすぎだね。人と怪物の殺し合いさ。逗填の説明も兼ねちゃうけど、逗填ってやつは、1500年前に暗躍した反逆者だよ。疫病に何の対策も打たない朝廷に失望したとか。」
「1500年前!?あの人は1500歳ってことですか!?」
「そういうこと。あいつの寿命は無限。殺さないと死なない。」
「で、怪物っていうのは?」
「怪物はさっき君を襲ったやつなんだけど、これは俊敏の怪物。それぞれに抜きんでた性能がある。だから君凄いって言ってんの。俊敏の怪物は追われたら逃げられる奴は飛翔できるやつ以外まずいない。」
「まあ、運動できる分頭は悪いですけど。」
「そこで最強補佐官だ。毎回、逗人大乱の18年前に最強が誕生する。こいつはそんじょそこらの怪物ならまとめてポイできる。」
男は髭を触りながら言った。
「じゃあ、あなたがその最強だと。」
その瞬間、男が吹いた。
「ぷっ。あっはははは。いやぁごめん。僕は逗人委員会の比良真だ。最強補佐官をスカウトして、逗人大乱では最強とは別で単独戦闘をする。」
「え、じゃあ、最強補佐官より強いってことですか?」
「ははは。君は笑いのセンスもあるよ。ははは。最強補佐官と僕たちとでは役目が違う。」
「役目?」
「ああ。僕たちは怪物を殺して回ることが仕事。でも最強補佐官は怪物を倒しながら最強を護り、逗填のもとまで連れて行くことが役目だよ。」
「え、ちょっと待てよ?今回で3回目ってことだよね?えーと?前の2回は?」
「負けたよ」
「あーそっかー負けちゃったのかー…っって負けた!?」
「うん。さっきそう言ったね。」
「負けたって、つまり最強が…」
「死んだ。」
「最強って死ぬんですか?」
「ああ。しかも、一度も逗填の元へ行けてない。」
「え?だって、怪物をこんな一瞬で倒せるなら…」
「こいつは雑魚。それに放たれる1000体は最強めがけて日本中から集まる。道中の人間を食らいながらね。」
「これで雑魚…」
「そう。で、話を戻すけど、君、最強補佐官にならないかい?」
「や、やりたいです!あ、でも、いいんですか?」
「もちろん。だって君、強いもん」
「おじさん…あ、比良さんはどれくらいの強さですか。」
「そうだな…僕が1000人で一番強い怪物に挑んだら2秒で全滅かな。」
「一番強い怪物って…?」
「炎の怪物。一瞬で焼け野原にできる。まあ、僕は逗人委員会の幹部の中でも下から2番目くらいかな。」
「あ、そういや逗人委員会って?」
「そこの説明はしてなかったね。普通、逗人大乱って、みんな忘れていくわけ。だから、最初の逗人大乱で戦った戦士たちの子孫が造った組織。代々この記憶を継承して、戦うんだよ。」
楓真は正直話に全くついて行けていなかった。だが、初めて自分の能力を必要とされていることが、無性にうれしかったのだろう。
楓真と比良は、逗人委員会の本部がある埼玉の大宮に入った。
「ここから大宮駅の前で三回回ってワンといえばワープする。」
「犬ですか…?」
仕方なく言われたとおりにすると、目の前の景色が変わった。
「ほら。ついたぞ。逗人委員会本部。」
比良についていくと、その先には一人の老人がいた。
「そういや名前聞いてなかった。」
「棚守楓真です。今ですか?それ。」
「もちろん。楓真。こちらが逗人委員会の委員長。最強を除けば一番強い。」
「そなたが俊敏の怪物と接触したという男か…」
「え、あ、はい!」
「訓練なしで俊敏の怪物と互角に渡り合える者は初めて見た。で?最強補佐官になりに来たか。」
「はい!お願いします!」
「うむ。その心意気や良し。比良。他の最強補佐官候補に紹介してこい。」
「はい」
比良は楓真を最強補佐官候補たちの部屋に連れて行った。
「みーんなー!新しいお友達だよぉ~!」
すると、奥から3人、ただならぬ気配を放つ者たちが出てきた。
「ったく…比良さんもうちょっと静かにしてくださいよ…」
「この辛辣な黒髪の女の子が生徒長の鎌井 怜。君と同じく偶然、影の怪物に襲われてここに来た。」
「紹介はいいっつーの!何が一応だ!」
「怜ちゃんは怖いねー」
「どうも。新入生ですか。よろしくお願いします。僕は大舘 宥。よろしくね。」
「宥は礼儀正しくて優しいから、仲良くしてあげてね。」
「で、あと一人が…」
比良が口を開くより早く、見るからにチャラそうな男が現れた。
「比良っち!なになに?新入生?いいね!よろしく!」
「彼が石口 雄心。実力は確かさ。」
(こんな個性たくさんのとこで生きていけるかな…)
つづく
