影の怪物は柳の攻撃すらものともしなかった。
そこに覚醒状態の宥と、ハンマーを携えた怜が来て攻撃をたたき込む。
それでも影は止まらない。
一方楓真は、比良のもとに駆け寄った。
「比良さん!比良さん!しっかりしてください。」
楓真は比良を背負うと、大澤が待機する後ろの方に連れて行った。
「比良!しっかりしろ!」
大澤の声に、比良が目を開いた。
「面目ない…。」
楓真は比良をその場に寝かすと、比良のナイフを取って戦線に向かった。
一方、柳らは未だに攻撃を当てられないでいた。
「くそっ!何回やっても同じことの繰り返しだ!」
怜は、ハンマーを振るうが、効果はない。
すると、宥が言う。
「ハハッ!気づいちまったぜ!こいつ、再生してるんじゃない。そもそもこいつに実体がないんだよ!」
「それはつまり…こいつ自身が、影ってことか!」
柳は何かに気づいたようにポケットから懐中電灯を取り出した。
「ほぅら。光だぜ。満足するまで浴びろッ!」
懐中電灯の光に照らされた部分が見えなくなった。
「攻撃として効いているのか⁉」
「いや。全身に永続的に照射し続けないとだめだ。」
「そんなの…」
「ああ。不可能だ。」
すると楓真が言った。
「怜が影に会ったって言ってた日って、曇りだったよな。」
すると怜がはっとした。
「ああ。そうだが…あ!そういうことか!」
すると柳が言った。
「今宵は新月…こいつが目撃されていたのはいずれも月や太陽が出ていない日…」
全員が頭を抱えた。
「ダメだ。意味なさそう。」
全員が落ち込んでいると、宥が指をさした。
「おい見ろよお前ら!あいつ、足元が変だぞ!」
全員が影の怪物の足元を凝視した。
すると―
「あ!?」
なんと、足元の一部がくすんだ鏡のように反射して、怪物の足を映していた。
雄心はつぶやいた。
「これは地面が鏡に変えられているのか、または下に影の世界が存在するのかってとこか。」
すると怜が言う。
「んなもん後者一択だろ。」
柳は怪訝な顔をした。
「だけどどうやって入り込む。」
覚醒から落ち着き始めた宥は言った。
「足元だ。全員でやつの足元に飛び込む。そうすればきっと…」
宥が言い終わる前に柳が口をはさんだ。
「愚策だ。もし失敗したらどうする。全員死ぬぞ。俺らが死ねば比良さんや大澤さんも死に、逗人大乱前に全滅だ。」
すると楓真があくびをしながら言った。
「ふわぁ…。めんどくさいな。んなもんやってみねぇとわかんねぇだろ!」
「やってみるのにどれだけのリスクがあると思ってる!」
「しーらね。」
「もういい!そこまで言うならお前ひとりで行ってこい!」
「わかったよ!最強が腰抜けじゃ、今回も負けかなー。いっそのこと俺が最強ならよかったのに。」
柳と楓真の口喧嘩は続いた。
その間、全力で影の怪物を止めている怜や宥たちの身にもなるべきだろう。
「やってやるよ!」
楓真が単独で走り出した。
足元。確実にその一点だけを狙えていた。
楓真が足元に飛び込んだ時、目の前が真っ暗になった。
しかしすぐに気づいた。真っ暗ではない。くすんだ影の世界だと。
「来たぜ!」
そこには影ではない、実体の影の怪物がいた。
「え?いきなりタイマン!?俺丸腰。タイムタイム。」
すると、影の怪物が飛びかかった。
「うおっ!?」
すると楓真はとっさによけ、すぐにけりかかった。
ガシ
止められた。だが、止められたということは今度は影ではない。
「キチャア!柳たちもさっさと来いよ!」
一方、透過する方の影の怪物と戦っている柳たちは、楓真が影の世界に入ったのを見て飛び込んだ。
しかし、地面にたたきつけられただけ。何もなかった。
「チッ。定員一名ってとこか。」
すると、雄心が素朴な疑問を投げかけた。
「そういや、俺らはこいつに攻撃当たらないのに、こいつの攻撃はなぜ当たるんだ?」
柳はため息をつきながら言った。
「まったく…気づいていなかったのか。あいつの手足の先、針でコーティングされてる。」
「針で殴られてたってこと?」
「はぁ…戦いながら言うのもなんだが、攻撃には点の攻撃と面の攻撃がある。」
「あーね。わかるよ。」
「針は点の攻撃だ。でも、それが集まると…」
「面の攻撃になる!」
「そういうことだ。やるぞ!」
こう言う柳だったが、彼にはすさまじい不安があった。
(楓真…あいつは才能があるがまだ未成熟。それに丸腰。影の実体とサシやってんなら厳しいか…死ぬなよ…)
柳の予想通り、楓真は影の実体に追い詰められていた。
「ぐわっ。つえぇ!」
影の怪物の威力の前に、楓真は追い詰められていた。
うずくまる楓真の前に、影の怪物が立ちはだかる。
「どうにでも…なれ!」
楓真は拳をたたき込んだ。びくともしない。
バン
楓真は吹き飛ばされた。
「いってぇ…血出てるし。」
影の怪物が静かに迫る中、楓真は影の怪物を観察した。
(…形は太った人型…人間かって言われると、違うな。でも、足が2本、腰から生えてるってことは…)
小6レベルの頭脳が導き出した答えは一つだった。
楓真は近づくと勢いよく影の怪物の股間を蹴り上げた。
「やっぱ金的が一番だぜぇ!」
もはや思考回路が小学生のそれである。およそ18歳のものではない。
しかし、確実に効果はあった。影の怪物の動きが崩れた。
「必殺技!金的連打!」
楓真の容赦のない攻撃が叩き込まれた。
運動神経最強の男による金的は、もはや致命傷である。
「ちぇっ。怪物は蹴りにくいな。」
影の怪物は悶絶した。
その瞬間、楓真の目の前が明るくなる。
「影の世界が壊れて、実体が現実に来た!」
柳が叫ぶと、怜のハンマーが振り下ろされた。
頭部破損。影の怪物は倒れた。
そこに雄心が来る。
「俺はすぐにとどめを刺したいんでな。」
矢を怪物の首に刺した。
「にしても…柳もぼろぼろじゃん。」
「…うるさい。最強ってのは委員会側での最強だからな…」
それから数日後、委員会本部の中庭に柳と補佐官たちが集まっていた。
そこには珍しく委員長がいた。
「おぬしら。そんなものでは逗填に勝てんぞ。」
「…」
委員長の言葉は確信を突いていた。事実である。
「よって、今から3年間弱、ひとり一人、閉じ込めて訓練してもらう。」
「え!?3年くらい会えないの?」
「うむ。」
ひとり一人、違う部屋に案内された。どの部屋にも、端に訓練用に回収した怪物の核が置いてある。
「「「「「よし。やるか。」」」」」
つづく
