柳や比良に送り出され、楓真は闘技場中央へと降りていく。
「これは…?怪物?怪物…じゃないよな?」
目の前にいたのは犬だった。可愛い。とても可愛い。
しかし次の瞬間、犬が楓真の足にかみついた。
「うわっ⁉こいつ怪物かよ!」
楓真は焦って振り払う。
その様子を見ながら煙草を吹かす比良に、柳が話しかけた。
「比良さん。あんないいやつどこで拾ってきたんですか。」
「お、柳もやっぱ楓真のこと気になる?」
「そりゃあ、まあ。あんなに身体能力に全振りした奴は見たことないですから。」
比良は煙草を闘技場に捨てると柳の方を向いた。
「あいつはね。俊敏の怪物と互角に追いかけっこしてたの。」
「互角⁉信じられない。」
「僕ははじめ彼を見た時、無学な愚人だと思った。でも、無学なだけで、それをカバーできるくらいの運動能力がある。」
一方、楓真は犬から逃げながら、比良から渡されていた短刀で斬っていた。
「くそっ。このワン公が!」
楓真がどれだけ刀を振っても犬の怪物には当たらない。
「でも比良さん。やっぱあいつバカですよ。」
怜が言う。
「ははは。でも彼には天賦の才がある。」
「は…?」
するとそこに柳が割って入る。
「でも、いくら俊敏と互角でも、戦闘能力がない。俺なら向かってきたとこをデコピンで粉だ。」
「問題はそこ。こっからの三年であいつにそれをたたき込む。」
「確かに、才能は悪くない。」
すると、柳が身を乗り出して叫んだ。
「おい!目をつむって戦ってみろ!余計な情報を制限して戦え!」
楓真は言われた通り、目をつむった。
その瞬間、体が強張るのがわかった。近づいてきている。でも、どこかがわかる。
その方向に刀を向けた。目を開けたころには怪物は死んでいた。
「た…倒した…」
柳は小さく微笑むと、自分の部屋に帰っていった。
その翌日、4人で、放たれた怪物の排除を命じられた。
「今までは僕や大澤、他の幹部がやってたんだけど、今日からは君たちね。」
「実技…ってレベルじゃないですね。」
宥が静かに言う。
「大丈夫。一応目付け役として、僕の部下(雑用)の石森くんが同行するよ。」
「石森です。よろしくお願いします。」
「比良さん…さっき思いっきり雑用って顔しながら部下って言いましたよね…?」
楓真が口をはさむ。
「気にしない気にしない。ねっ?いーしーもーり?」
「はっ、はい!」
「じゃ、いってらっしゃーい」
5人は怪物の目撃情報があった場所に向かった。
「ここに現れた怪物は鏖殺の怪物。鏖殺の怪物には三種類がいて、推測だとその中でも最弱のモデルと予測されます。」
「最弱のモデルだとどんくらい?」
「目安ですが、比良さんなら20秒で終わります。」
「余裕じゃん!」
雄心は自慢気に言う。
すると、後ろから怪物が現れた。
「おっと出たか…ぶちのめすぜ!?」
すると、石森の態度が急変した。
「全員下がってください。」
「え?何で?」
「おそらく誤情報の伝達でした。鏖殺の怪物の中でも最強のモデルです。」
石森が前に出た。
腰の刀を抜くと、静かに斬りかかる。
しかし、一瞬で払いのけられ、気絶させられてしまう。
「石森さん!くそっ。いけるか?宥。雄心。楓真。」
「怜ちゃん。頑張ろう。」
「おうよ!」
「が、頑張る!」
鏖殺の怪物はその大きな手を4人めがけて振り上げた。
「避けろっ!」
全員が左右に飛んだ。
すかさず宥は裾から苦無を抜いて腕に刺した。
「やってやろうか…!」
雄心も弓矢の準備をする。
「つーか何で柳は同行してねぇんだよ!」
怜が愚痴を言いながらハンマーを取り出した。
「仕方ない。最強というカードは貴重なんだよ。きっと…多分…」
楓真が言う。
全員が鏖殺の怪物にとびかかる。
「潰す!」
怜はハンマーを振り上げる。
「死ね。」
宥も苦無を飛ばす。
「それっ」
雄心が矢を放つ。
「こうなったらやるしかねぇ!」
楓真も刀を持って走った。
全員の攻撃は完璧だった。しかし、怪物の前では無意味だった。
怜のハンマーは軽く受け止められ、宥の苦無もまるで効いていない。
「くそっ!」
雄心は矢を撃ち続ける。
「おいバカ!矢が私たちにあたるだろうが!」
「…」
雄心は黙って矢を撃っていた。
しかし当たらない。
万策尽きたかと思っていたその時、楓真の刀が怪物の足を貫いた。
「⁉」
誰もが驚愕した。
「楓真1?」
「この怪物は強すぎて、弱い俺に気づけてなかったんだ。」
「マジか…」
楓真は飛び上がり、鏖殺の怪物を斬ろうとした。
しかし、体勢を直した鏖殺によって軽々しく受け止められてしまう。
「くそっ!」
しかしそこに、仲間たちの刃が迫っていた。
「楓真!よく堪えた!」
ハンマー・苦無・矢。
全ての攻撃が怪物に叩き込まれた。
「終わった…のか…?」
全員ボロボロだった。だが目の前に、怪物は立っている。
「嘘…だろ…」
怪物が消耗しているのは間違いなかった。致命傷だった。だが、瀕死で立っている。それが怪物だ。
その瞬間、柳が現れた。
「ほんとだ。比良さんの言う通り。」
鏖殺の怪物は倒れた。
「やっ…柳!」
「比良さんから、鏖殺の怪物の気配がおかしいって言われてな。」
奥から石森を抱えた比良がやってきた。
「大丈夫だったかい?ごめんね。情報の伝達ミスだ。いきなり難しい戦場に送っちゃって。」
「でも、楽しかったぜ!」
楓真はにっこりと笑った。
それから3日間、4人はひたすら怪物を屠り続けた。
ある日、逗填はある人物と電話をしていた。
「やあ。そちらは順調かい?ありがたいよ…君が委員会内部まで潜り込めてること…」
電話の奥から声がした。
「必ずお役に立って見せます。」
「期待してるよ。『人間の怪物』。ふふふ。」
一方逗人委員会本部では…
「おーい大澤ー誰と電話してるの?」
「いえ。ちょっと…」
そこに、警報が鳴り響いた。
「本日の怪物を確認。ランクS『影の怪物』」
つづく
